楽天市場 あれこれ 2022/10/02 ヤングアダルト向けノンフィション時代小説「ヴィクトリア湾のほとりで」⑰
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2022/10/02 ヤングアダルト向けノンフィション時代小説「ヴィクトリア湾のほとりで」⑰

ヤングアダルト向けノンフィション時代小説「ヴィクトリア湾のほとりで」⑰
(ミハイル・ヂェメノーク作 1998)

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翌日、井戸のはねつるべが針のような霜に驚くほどすっかり覆われていた早朝、アキーム・ダルニッツァは綿入れの上着と耳カバー付き防寒帽を身に着け、ぴかぴかに研ぎ上げられた大鎌を持って草地に出かけた。草刈り場に着いてみると、猟師のアルヒープ・マコーヴィンやウースチン・アゾーリン、ロノマレンコ爺さんが既に自分の後ろに白い霜の跡を残しながら大鎌をふるっていた。彼らも、病気のために時期の良い時に家畜の餌を準備しておくことが出来なかったのだ。

こんもり茂ったネコヤナギ付近に荷馬車が集まって止めてあり、遠くに行かないように三本の足を縛られた馬たちが草を食んでいた。その辺りにほてっている馬を止めながら、アキームは陽気に声を掛けた。
「おはよう、みなさん、ご苦労様ですな」。
「おはようさんで、ラーズム」。刈り手たちは一斉に答えた。
アキームが馬をくびきから外し、大鎌を柄に接げている間に、刈り手たちは、中休みに集まった。

「どうしたかね、アキーム。恐らくお前さんとこも必要に迫られて二番草を刈りに来たかね」。イワン・カルポーヴィチ(ロノマレンコ爺さん)は長手袋を脱ぎ、凍えた手でポケットから紐の付いた小袋を取り出した。
「やむを得ず刈るのさ。ほら、エフィムの干し草の山は灰しか残っていない」。そう言って彼は、輝いている霜の針が散りばめられた燃えカスの黒い山々を顎で示した。「片手の猟師が現れなかったかね」。
「いいや、ラーズム、自分の木の長持ちと曲がったウインチェスター銃と共にドロンしてからこっち、音沙汰も無しさ。」。語り部爺さんは頭を振った。「一体オオカミは、誰のヒツジを食ったかなぞ感じるかね?」。

わしは、燃え殻を見て思ったんじゃが」。のっぽの猟師のアルヒープ・マコーヴィンが、タバコの煙を深く吸い込みながら話し始めた。「一体いつになったら人間はお互いに卑劣なことをするのを止めるのじゃろう。例えば、わしなんか全人生でハエを怒らせたこともないというのに、ミローン・ブラコーフはわしに何をしたかね。え? 何で2万の財産をこさえたかね。わしが最初にその石炭を見つけたことに対してくれたものは、侮辱だけだったさ」。
「そうなんださ、アルヒープ。お前さんの失敗は、しゃべっちまったってことさ。口をつぐんでいれば良かったんだよ。そうしてから、自分でこの石炭のことを届け出ればなあ」。ウースチン・アゾーリンが会話に加わった。「お前さんに報奨金が出たのになあ。今頃は二番草なんて刈っていないでよ、ミローンみていに羽毛入りの枕に寄りかかって、なあんにもしねえでいられたのによ」。
「今、ブラコーフの草刈り場に放火してやる。そうすりゃ、あいつんとこの干し草の山は黒い崩れ山ってことになるのさ」。アルヒープは、灰青色の煙が立ち上っている農場の方へ顎をしゃくった。
「おい、おい、正気か、アルヒープ」。アキームは彼に怒りの視線を投げた。「風が吹いて、火がわしらの草刈り場まで回ったりしたらどうするんだ。アルヒープ、そんな考えは頭から追っ払うんだ」。
「ああ、わしはついかっとなって馬鹿なことを言ったよ。わしらは、話に夢中になっちまったんだ。さあ、草を刈りに行こう」。アルヒープは大鎌を手にして、自分用の草刈り場の方へ歩き出した。

くぼ地に沿って細い袖のように延びている、エフィムの持ち分の草刈り場では、秋に間に合って草が生え揃うまでになっていた。コヌカグサやヒメムラサキの中にクサフジさえ見ることがあったので、アキームは次から次へと広い刈跡を残しながら、楽しい気分で二番草を刈った。日暮れまでに半分程まで刈り進み、たまり場に戻ったのは最後だった。
「ラーズム、お前さんの刈跡は荷馬車が楽に通れる程だ。つまり、まだ元気だってことだ。お前さんはもう70だってのによ、そうだろう」。大鎌の刃を叩き直しながら、ロノマレンコ爺さんが言った。
「ああ、イワン・カルポーヴィチ、今んとこ、まだ腰は曲がらぬよ。お前さんの歳まで生きたいもんだがね。お前さんは、もうすぐ90じゃないか」。


不意に遠くの刈跡の向こうに、まるで土から湧いた様に子ジカが現れた。それは、沼沢地の地表に立っていた。黄色い斑点のある茶色の横腹が膨れ上がっていた。突然、何処からともなく口輪をつけた犬たちが子ジカに襲い掛かって行った。森の方から沼沢地の方へ、片腕の猟師が砲身を短くした銃を持って走って来た。
「お前さん方、見てくれ、わしらの所へ誰がおいでなすったか」。荷馬車から斧を取り出しながらアキームは言った。「噂をすれば影、あのサハリン人だ」。
狩り手たちが、片手の猟師に近づくと、彼は銃の遊底をカチンと鳴らし、子ジカと犬たちに向かって立って、言った。
「斧を仕舞え、アキーム。神かけて俺は干し草を焼いていない。エフィムの干し草の山は、恐らくブラコーフのやつらが悪意で焼き払ったのだ」。
「要塞近くのチョウセンニンジンは、誰が掘り出した? スネジョークを草地から誰が連れ去った? 誰がじゃい?」。そう言うと、アキームは銃口近くまで進んだ。

しかしその時、ウースチンが彼を止めた。
「エフィムは、現場で彼の手を捕まえなかったんだ」。ウースチンはアキームの襟をきつく掴んで押しとどめた。
「捕まっていない者は泥棒じゃない、か」。肩から斧を降ろしながら、アキームはため息をついた。「どうして獣を苦しめているのかね、すぐに撃ったらいいじゃないか。お前さんは狙撃兵なんだろうが」。
「まあ、見ていてくれ」。
子ジカが犬たちを角で突いている間に、サハリン人は皆の目の前でシカの腹の下に長い生皮のベルトを棒で差し込んだ。突然、荷馬車が近づき、二人の中国人が飛び降りた。片手の猟師の指図で満州人たちは巧みにシカを押し倒し、そのベルトで脚を縛った。そして、ながえの横木を使ってシカを泥の中から持ち上げ、柔らかいライ麦の藁が敷かれた荷馬車に乗せた。
「ブラコーフのためにシカを捕まえているのじゃろう?」。沼沢地の方へもっと近づきながら、イワン・カルポーヴィチが聞いた。
「思い違いだよ、爺さん。自分の飼育場のために捕まえているのさ。もう1ダースも捕まえたぜ。若いシカの袋角の需要は今大きいからね。飼育場を作ることにしたのさ。今はチェレムシャンカよりも低地の塩水湖のほとりに住んでいるんだ。どうぞ、皆さんおいでください」。サハリン人は、犬たちから革の口輪を外さないまま綱を荷馬車に縛り付けると、草刈り場を横切って道の方へ乗って出て行った。

「あのくわせもの、儲けやがって、畜生。ブラコーフよりもさらに上手だ」。たまり場に向かいながら、アキームは言った。
「もちろん、エフィムの根っこもスネジョークも売り払ったんだ。それで儲けやがって、罰当たりめが」。爺さんは拳骨で脅かすまねをした。
「今日はもう十分だ。明日刈り終えよう」。
刈り手たちは馬を馬車に付け、自分の刈跡を通ってチェレムシャヌイの方角へと出発した。

あくる日、アキーム・ダルニッツァがエフィムの窪地を刈り終える間に、ダーリヤと上の三人の息子たちのステパ、エゴールカ、ワシャートカは全ての二番草を運び終えることが出来た。《干し草はいつもの良いものではないけれど、病気になって死ぬことはないだろう。これで家畜は全部冬を越せるわ》。一番年長の息子、ステパをこっそり見ながら、ダーリヤは思った。《何て上手にフォークを使っているのだろう。父さんにそっくりだわ。同じくらい美しくて、強い。あの不運な人は、今どこにいるんだろう。どうしているんだろう》。

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(つづく)

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