楽天市場 あれこれ 2022/10/26 ヤングアダルト向けノンフィション時代小説「ヴィクトリア湾のほとりで」⑳
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あれこれ

2022/10/26 ヤングアダルト向けノンフィション時代小説「ヴィクトリア湾のほとりで」⑳

ヤングアダルト向けノンフィション時代小説「ヴィクトリア湾のほとりで」⑳
(ミハイル・ヂェメノーク Михаил Деменок作)


「満人だ!」。アキームは、壁から散弾銃と弾薬帯をもぎ取ると、猟師のアルヒープ・マコーヴィンに差し出した。「取れ、お前は腕利きだ。潜水夫の橇に早く乗れ」。
アルセンチーは、素早く身支度をすると、物置から2丁のベルダン銃と薬莢のまるまる入った弾薬盒を持ち出した。
「おお。こんな武器があれば、匪賊どもをさっさと追い払おうぞ」。男たちは、橇に駆け寄った。

「馬たちを死なせる訳にはいかない。馬は貸さない」。半外套の全てのボタンを掛けながら商人は叫び、アキームを橇から突きのけた。
「何言ってんだ。畜生め。あっちではわしらの家族が強奪されているんだぞ。お前は突っ立って見物か」。アルヒープ・マコーヴィンは銃の遊底をかちっと鳴らした。「役立たずの犬みてえにこの場でぶっ殺すぞ」。
商人は後じさりを始め、下男に向かって叫んだ」。
「お前、何突っ立っているんだ、まぬけ、こいつらをやっつけろ」。
「とんでもないがですよ、ミローヌィチ[ミロンの息子さんという意味の敬称〕」。イグナートは飛び退いた。
「いつまで無駄口をたたいているんだ。銃声が聞こえんのか」。アキームは手綱を掴むと、グドークをチェレムシャヌイの中心部に向かって追い立てた。

ミトラコフ蒸し風呂の側で、彼はアルヒープの願いを聞いて、汗だくの馬たちを止めた。
「取れ、ラーズム」。アルヒープは藁の下から商人のベルダン銃と弾薬盒を引き出した。「あいつ、完全武装してたんだ。がめつい野郎。きたないやつ」。
「ところで、お前さん方、真っ直ぐ村の匪賊どものところへ乗り付けては、自分たちも馬も全滅だぞ。搔き集めた財産を匪賊から奪い返し、持ち主に返さねばならん。匪賊らにとってチェレムシャヌイからの道は一つだ。分水流を渡ってフォームキン草地へ行く道だ。道は、あそこの草地で二股に分かれている。分水流の近くで彼らを待ち伏せしよう」。
アキームは手綱を締めてグドークを押さえ、馬たちを裏道にやり、野菜畑を超えて分水流の方へ向かわせた。霜の覆われたヤナギの茂みで彼らは馬を繋ぎ、自分たちは切り立った崖の背後に陣取った。


遠く白い雪の中に乗馬者たちの黒ずんだ人影が見えて来た。橇の軋る音、馬たちの足音や鼻息も聞こえて来た。前面に出て疾走して来たのは、搔き集めた財産を積んだ橇の一隊で、その背後両脇を警護隊が固めて走って来た。
ちょうどこのようにして、かれこれ40年ばかり前、プレーヴナ攻防戦[ブルガリアの町。1877~1878年のロシア-トルコ戦争時の激戦地]において、アキームは自分で掘った塹壕の中に身を置いてトルコ軍の擲弾兵を迎え撃ったのだった。その時はうまいことやっつけた。アキームはアルヒープとアルセンチーが、期待を裏切らないだろうということを知っていた。しかし、自分のことは当てにしていなかった。齢も齢だし、目も衰えて来た。おまけに酔いも抜けきっていなかった。しかし、彼も念のため自分の前の雪の吹き溜まりに、瘤の付いた棒を突き刺し、そこにベルダン銃を備えると、標的に照準を合わせ始めた。匪賊たちの馬が分水流に掛かり始めたちょうどその時、一斉に銃声が鳴り響いた。

御者たちは即死だった。次の3発で警護隊員たちが射殺され、さらにもう3発で射手たちが死んだ。残りの匪賊たちは馬に拍車をかけて、叫び声を上げながら道のないところをフォームキン草地に方へ駆け出した。

その夜、匪賊たちから取り返した財産は、チェレムシャヌイの村人たちのところへ戻った。しかし、アキーム・ダルニッツァの家で持たれた村の寄り合いで明らかになったことには、ダーリヤ・ダルニッツァを含めた多くの村人たちから匪賊たちが奪った金銭は、一味が持ち去ったままになった。今までにも、稼ぎ手を失ったり、山火事、水害、息子たちの徴兵などどん底の不幸を味わっては来たが、チェレムシャヌイの村人たちが、この夜ほど胸が張り裂けんばかりの号泣と苦い涙を流したことは無かった。
「一体私はこれからどうしたらいいんだろう、ねえ、みなさん、うちは一文無しになってしまったのよ。首吊りでもする以外無いよ」。ダーリヤが泣きながらぶちまけると、他の兵士の妻たちもさめざめと泣いた。
男たちは白髪頭をうなだれて、苦い物思いにふけりながら、黙って長椅子に座っていた。

「十分に泣いたかね」。アキームは長椅子から立ち上がった。
女たちは涙を拭いながら近衛兵の方に目を向け、彼が何を言うのか、どう言って慰めるのかを待った。
「女たちよ、涙は苦境から救い出してはくれない。あてにもならぬ誰かの助けを待っていないで、明日は仕事にかかるんだ。馬を持っている者は、リャーピンのところへ雇われて、石炭を鉱山から埠頭まで運ぶ仕事をすれば良い。日給で1ルーブルずつ払って貰える。馬を持っていない者たちは、ルビースのところへ日雇いに出て、製粉所で粉を挽けば良い。誰もが小麦粉を手に入れることが出来る」。

近衛兵の家に、アルセンチーとザーラが橇に乗ってやって来た。彼は5プード[約81.9キログラム]の小麦粉が入った袋をクマのように脇の下に抱え、ザーラの後について家に入った。アルセンチーは、何か微笑みながら、アレーナ・プロスタキーシャや店で見かけた他の兵士の妻たちを目で捜すと、彼女らを袋の方へ手で呼んだ。
「お取りください、お取りください。アルセンチーがただで差し上げます」。ザーラが丁重に言った。

アキームは、1プード[16.38㎏]の小麦粉がちょうど入る、シラカバ樹皮製の容器をアレーナに手渡した。
「決まった量を分ければいいさ」。
「血族って私には不思議に感じる。同じ血が流れていても違っている人もいるんだ。ミロンや彼の息子たちは、私らと同じ人間とは思えない。オオカミのように私らを見る。息子のイワンだって言うまでもないけど、だけどアルセンチーは違って、人間らしい心を持っている。彼と、ワルワーラ、あんたには、ご多幸をお祈りしますよ」。アレーナ・プロスタキーシャはそう言うと、シラカバ樹皮の容器から小麦粉を、マリヤが貸した袋に移し替えた。

兵士の妻たちが、自分たちの間で小麦粉を分けている間に、アキームの頼みで商人に馬を引き渡したアルヒープ・マコーヴィンが帰って来た。彼はアキームに近づくと、彼の耳に何事かをささやいた。
「今行くよ」。二人は寝室に入って行った。アルヒープは顔中で笑って、懐中から膨らんだ革の財布を引き出した。
「あいつからきれいに搔っさらった。事を荒立てようとはすまい。取れ、ラーズム。兵士の妻たちに金を渡そうか。撃ち殺した匪賊どもから俺がこの金を見つけたとでも言おうか。ただ、女たちに財布を見せては駄目だ」。
アルヒープは、百ルーブル紙幣の束を取り出すと、財布をベッドの下に放り投げた。
「正しく説明しろ、アルヒープ。行こう」。

喜びの叫び声の中、アキームとアルヒープは兵士の妻たちに金を分けてやった。彼女らは、自分たちの擁護者である彼らの健康と長命を願って十字を切ると、事が良い方に転じたことに満足して、それぞれの家に散って行った。
(つづく)

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