楽天市場 あれこれ 2022/11/16 ヤングアダルト向けノンフィション時代小説「ヴィクトリア湾のほとりで」㉓
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2022/11/16 ヤングアダルト向けノンフィション時代小説「ヴィクトリア湾のほとりで」㉓

ヤングアダルト向けノンフィション時代小説「ヴィクトリア湾のほとりで」㉓
(ミハイル・ヂェメノーク Михаил Деменок作)


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チェレムシャヌイ村は不安で、憂鬱で、悲しく、苦しかった。女たち、特に兵士の妻たちにとっては辛かった。虐げられ、従順な奴隷のような扱いを受けながら、女たちは、戦争に行った者たちに代わり、様々な困難に立ち向かって行った。自分の物憂い気分は、毎日の労働と日常的心配事のなかで吹き散らしてしまおうと決めていた。恐らくダーリヤ・ダルニッツァは、昼に夜に誰よりもあくせく働いたに違いない。何しろ、家には8人の子供がいて、そのそれぞれに食べさせ、履かせ、着せなければならなかった。

アキーム・ダルニッツァとアルヒープ・マコーヴィンが匪賊たちから取り返したお金を兵士の妻たちに分けたにしても、彼女には取られた金額の四分の一も戻らなかった。エフィムの貯金箱である革の袋には、万一に備えて、少なくとも2千ルーブル以上が蓄えられてあったのだ。今や何とかやりくりを付けるために、ダーリヤ・ダルニッツァはアリョーナ・プロスタキーシャと組んで、リャーピン街道を埠頭迄石炭を運ぶ雇い仕事に出ていた。

早朝にはもう彼女たちは、ラズビータヤ・チャーシャ[壊れ茶碗山]の方向に平地を横切って橇を飛ばし、リャーピン鉱山へと向かう。そこでは、石炭を積み込んだトロッコが彼女らを待っていた。そのトロッコを馬の牽引用鎖に繋いでから、日雇い労働者たちは10露里[約10.67キロメートル]の道のりを、過度の苦しさから口を泡だらけにした馬に付いて枕木に沿ってのろのろと進むのだ。汽船が煙突をくゆらせている埠頭まで。

家に帰り着くのはいつも暗くなってからで、子供たちが寝てしまった後だった。ダーリヤは、いの一番に、藁を詰め込んだ板寝床にかわいい子供たちが雑魚寝している寝室に向かう。小さなランプの弱い光の下で、彼らの裸の足を数えて確かめる。《あかぎれがある、これはリュープカの足。親指の爪が齧られたようになっているこれは、マルーシカの足。クマの子みたいに広くてひび割れているのはステープカの足ね》。

子供たちを数え終わると、ダーリヤはありあわせのもので夕食を取ってから紡ぎ車の前に座り、深夜まで糸を紡ぐか麻布を織った。そうでなければ、小桶にチョウセンゴヨウの実を入れて、臼を使ってそれを挽き、脂を絞る。

たくさんの仕事をやり終えた後、ダーリヤは大梁の下の聖なる一角にある、大天使聖ミハイルの聖像が置いてある祭壇から、エフィムの黄色く変色した何通かの手紙を取り出す。そして手製のテーブルクロスが掛かった丸テーブルに座り、それを何度も読み返し始めるのだった。実を言えば、彼女は字を読むことが出来ない。ただもう大分以前から暗記して、良く知っている文句を声に出しているだけなのだ。手紙はどれも簡潔なものだった。

最初の手紙でエフィムは、国境線で戦っていると書いて来た。自分たちがドイツ軍を押し返したり、その逆だったりと。食べ物がまずいことと、将校の粗暴と横暴への不満を訴えていた。何よりも恐ろしいことは、どんなちっぽけな過失に対しても野戦裁判か、あるいは死刑が待っていることだと。

エフィムは書いた。《俺はこらえている。きみは8人の子供たちと、どのように戦っているのだろう、愛する、いとしいお前。飛べるものなら、必ずやチェレムシャヌイに飛んで行くだろうに。たとえそれがほんの一時であろうとも。お前たちを一目見るために、仕事を助けるために。願わくはドイツに勝てるように、そうすれば再会出来るだろう》。

次の手紙でエフィムが知らせて寄越したのは、ペレムィシュリ[第一次世界大戦では、ロシアにとっての最大の会戦、ペレムィシュリ攻囲1914-1915があった。現在はウクライナとの国境にあるポーランドのあまり目立たない流通、居住地点]近郊での白兵戦で、流れ弾によって彼の臀部が少しかすり傷を負った。そのため彼は激怒して、フォークにニシンを刺すように、ドイツ人たちを銃剣に串刺しにしたというものだった。ハエも怒らせないような、彼女のエフィムがドイツ人たちにこんな制裁を加えることが出来たということに、ダーリヤは首を傾げた。

さらにエフィムの手紙には、司令官のコルニーロフが退却命令を遂行せず、包囲され、師団全体と共に捕虜になったと書かれてあった。そして彼は護送兵を倒して、捕虜の身から逃げ、前線を越えて皇帝陛下の最高司令部に出頭したこと、皇帝が彼に聖ゲオルギー3級勲章を授与し、今エフィムが所属している第25歩兵軍団の司令官に任命したことが書かれてあった。そして文末には、最近の戦いにおける勇敢な行動に対し、彼女の夫に聖ゲオルギー1級軍事勲章が授与されたという朗報と、だから、父さん、これからはあなた一人が十字勲章受章者ではないですよ、ということばが付け加えられてあった。

エフィムの手紙を読み直してから、ダーリヤはイコン、守護天使の聖像を哀願するように見つめ、愛する夫のために長いこと祈り、そして神に、敵の弾丸から夫を守ってくれるよう頼むのだった。

彼女は石積みの暖炉の側の長椅子の上で、身体の近くにエフィムの半外套をしのばせて、寝に着いた。

ある日、ダーリヤは埠頭から夜遅くなってから帰った。リャーピンが日雇い女たちを引き留め、ブラコーフ家のシカ飼育場のための金網を荷船から降ろすよう命じたためだった。彼女は慣れた手つきで、汗だくの馬のラーストチカ[ツバメの意味]を馬具から外すと、厩に引いて行った。畜舎はきちんと片付いていた。表の柵の中は、清潔に掃除されていたし、それぞれの飼い葉桶には干し草が分配されていた。みんな彼女の愛する子供たちが頑張ってやったことだった。

家の中では、いつもの子供たちの寝息の代わりに、何かに興奮した子供たちの騒々しい声がダーリヤを立ち止まらせた。
(つづく)

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