楽天市場 あれこれ 2022/12/05 ヤングアダルト向けノンフィション時代小説「ヴィクトリア湾のほとりで」㉕
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2022/12/05 ヤングアダルト向けノンフィション時代小説「ヴィクトリア湾のほとりで」㉕

ヤングアダルト向けノンフィション時代小説「ヴィクトリア湾のほとりで」㉕
(ミハイル・ヂェメノーク Михаил Деменок作)



「大丈夫だから、お前、撃ってみな。あん畜生らが回れ右して引き返すかも」。ダーリヤは手綱を取って、ラーストチカを急き立てた。
「はいどう! 進め! はいどう!」。雌馬は従順に、規則正しい足取りから、だく足に移行した。それに続いてルレートも足を速めた。

しかし、これも彼らを救うことにはならず、却ってオオカミどもを、より大胆に、より敏捷にさせただけだった。一度逃げたら敵を乗じさせるだけで、尽くす手は無くなるのだ。狭軌道まであとほんのわずか、200か300サージェン[約400か600メートル]を残すまでという時になって、オオカミの群は、あたかも号令を掛けられたかのように分離した。今や線路の右も左も三頭ずつのオオカミが身体をいっぱいに伸ばして走っていた。より大きな一頭が丸く回ってから、トロッコの方へ一直線に向かって来た。

ダーリヤは状況を見て、息が詰まった。何よりも彼女は、血を分けたわが息子から死の危険を引き離さなければならなかった。ダーリヤの手は機械的に、橇の干し草の下にある斧に伸びた。
「停めて、母さん、停めて!」。ステパが叫んだ。「手が揺れてて、撃てないよ」。
確かに、トロッコと橇が、ひょっとするとひっくり返るかもしれない程ガタガタ揺れている時に、どうして銃を撃つことが出来ようか。

ダーリヤは、全力を振り絞って手綱を引いた。ラーストチカは、一瞬膝を屈めてから停まると、大きなオオカミの方に頭を向けて、釘付けになったように立っていた。しかし、すぐにオオカミの嫌な臭いを鼻孔にとらえると、鼻息を荒くして、再び、だく足でその場から駆け出した。

ステパは、停止したちょっとの間に、橇に一番に走り寄って来たオオカミをめがけて発砲した。オオカミは吠えて、血にまみれて、凍った雪の上に転がった。しかし銃声は、猛獣どもを止めることは出来なかった。ステパンは、再び発砲した。が、命中しなかった。というのも、トロッコがひどく揺れ、橇が線路側溝に落ちたため、彼は立っているのがやっとだったのだ。その拍子に、食糧が入った背嚢が、干し草の束と一緒にどすんと雪だまりに落ちた。
すると、すぐさまその場所で取り合いの乱闘が起こった。オオカミたちは、お互いにぶつかり合いながら背嚢を歯で引き裂いた。

突然、一筋の光が差し込むように、ある考えがステパンの心に浮かんだ。オオカミどもが再びトロッコに向かって突進して来た時に、ステパは足で、橇からヤギの体を突き落とした。気が付いた時には、ヤギを八つ裂きにしている灰色の群れは、もう遠く後方にあった。驚いた馬たちはたっぷり2露里[約2.1キロメートル]を走ったが、危険が去ったことを感じて、いつもの規則正しい歩みに移って行った。

「ああ、無事かい、お前」。ダーリヤは、ここでやっと汗だくの馬たちを停めると、ステパに飛びついて、彼を抱いた。
「無事だよ、母さん。だけど、父さんの背嚢だけが残念だ」。
「お前は本当にもう、立派な大人になったんだね。お前のお陰で助かったんだよ」。


二人は疲れて、しかし、終わり良しになったことに満足して、埠頭からの帰路に着いた。フォームキン草地の近くで、橇に乗った、怒っているアキームが彼らに追いついた。彼は突然、嫁に食って掛かった。
「お前や、どうしてわしに声を掛けずに、こんな仕事に子供を連れ出したんだね」。
「この子は子供なんかじゃないんですよ」。ダーリヤはアキームに顔を向けた。「今日、オオカミどもに襲われた時、この子はどんな大人よりも立派だったんですよ」。
「謎かけ遊びをしているのかね、ダーリヤ、何のことやら」。アキームは、霜で被われた、それでなくとも白くなった眉をひそめた。「明日はリャーピンのところへ一緒に行こう」。
「ええ、行きましょう」。ダーリヤは、おとなしく同意した。「そして、お義父さん、途中でオオカミを運びましょう」。
「どのオオカミだね」。アキームは橇の上で不審がった。
「ステパが仕留めたやつですよ。四方からわたしらに向かって来て、やっとのことで助かったんですよ」。
そして、彼女は義父に、オオカミとの一件を詳しく話して聞かせた。

「何ということだ」。アキームは頭を振った。そして、初めて見るような目で、注意深く、長いことステパを見た。「しかし、この坊主は機転の利く子の様じゃな。明日は、わしらと一緒に鉱山に行こう」。
この日から、ダーリヤ・ダルニッツァの子沢山の家庭に、稼ぎ手が一人増えた。

翌日。黒ずんだ紫色の空を、縁がちぎれちぎれになった鉛色の雨雲が、ヴィクトリア湾の方からどこかに向かって列を成して飛んで行く。すると、すぐさまチェレムシャヌイに雷鳴がとどろき渡った。暗い空から、まるで篩(ふるい)にかけたようにして雪あられが落ちて来た。それはすぐに、雪交じりの冷たい雨へと移って行った。
「焼き石を持って来るんだったなあ。霜枯れた冬に雷なんて、こんなことがあるもんだか」。エフィムの屋敷に橇を乗り入れながら、アキーム・ダルニッツァは十字を切った。ダーリヤとステパは、馬たちを馬車に繋いでいた。

「寒気が緩んで行くに違いないね」。ダーリヤが言った。
「緩むには緩むだろうが、どしゃ降りになるんじゃないかね」。陰気な黒雲をじっと見ながら、アキームは橇から降りずに、ちょっと腰を上げた。「お前、今日出掛けるのは取りやめにして、あったかい家の中でみぞれが終わるのを待つのが良くはないか」。
「オオカミはどうなるの」。ステパが聞いた。
「明日までそのままにしておくさ。毛皮はなんともないよ」。アキームはそう判断して、ウマを自分の屋敷の方へ向けた。


雷鳴が繰り返しとどろき、それらはすぐに厚い雲に吸い込まれて行った。みぞれは絶え間なく一昼夜降り続き、次に寒波が襲った。朝まだきにチェレムシャヌイの村人たちが目を覚ました時、みんな息を呑んだ。果樹園には、氷で被われた雪の重みで先が折れた大枝や小枝が一面に散乱していた。
(つづく)

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