楽天市場 あれこれ 2022/12/15 ヤングアダルト向けノンフィション時代小説「ヴィクトリア湾のほとりで」㉖
fc2ブログ

あれこれ

2022/12/15 ヤングアダルト向けノンフィション時代小説「ヴィクトリア湾のほとりで」㉖

ヤングアダルト向けノンフィション時代小説「ヴィクトリア湾のほとりで」㉖
(ミハイル・ヂェメノーク Михаил Деменок作)



チェレムシャヌイの人々を不意に襲った、気まぐれな自然の猛威は、人のいい鍛冶屋のところでウマに蹄鉄を打とうと朝からウスチン・アゾリンの屋敷にやって来た、村の男たちの賑やかな議論の種となった。
「聖母様に誓ってもいいが、生まれてこの方何年もこの世に生きているが、中国の春節に雷が鳴るなんぞ、一度だって聞いたことはねえぞ」。鍛冶屋の炉の炭で手巻きタバコに火を付けながら語り部爺さんが言った。「聖書によれば、戦争が長引くって訳だが」。
「そりゃ本当だぜ、爺さん」。猟師のアルヒープ・マコーヴィンが頷いた。「わしゃ、二番草を家に運んでいる時に、マーモントフカでこの動乱の時代を目の当たりにしたんだ。ブラコーフの農場から、新兵が連れて行かれたんだよ」。
「ブラコーフ家の人間か?」。アキーム・ダルニッツァが彼をさえぎった。
「いんや、ラーズム、あそこの下男たちが連れて行かれたのさ」。
「金でけりを付けたな、悪党めが!」。去勢馬のひずめから金づちで氷を落としながら、アキームは口の中でもぐもぐ言った。

「そしてな、わしがあいつらに追いついた時には」。マコーヴィンは話を続けた。「ちょうど、大砲をぶっ放したみてえな雷と、バケツをひっくり返したみてえな雨だったのさ。かわいそうな新兵たちは、お互いにしがみついて祈っているのさ。アルセンチーの結婚式に、商人と一緒にいたイグナートは、わしに言ったものさ。冬の真っ最中の雷は縁起が悪い、別の戦争が起こって、彼らを確実に破滅に導くんだと。彼はこれを言うと、自分はおいおいと泣いているんだよ」。

「みんなを惑わすようなことを言うもんじゃないぞ、アルヒープ」。突然、無口なゲラシム・シェフツォーフが口を開いた。「別の戦争なんて起こる訳がない。ドイツとの戦争だって終わりが近いんだ」。
「ところがどうして」。イワン・カルポーヴィチが薄くなった顎鬚を梳いた。「ドイツとの戦争の直前に、真っ赤な竜がチェレムシャヌイの上空を飛んだことを忘れたんじゃないかね。お前さん、見たろうが。わしはその時、お前さんに言ったろう、大不幸が起こるって。そしたら戦争が勃発したんだ」。

「何だってお前さん方は、戦争だ、戦争だって、そうしてわめいているんじゃい。戦争なんて、3回呪われるがいいや!」。2、3日前に、長男パーヴェルの戦死公報を受け取った、陰気な顔をしたイワン・ドヴォルツォフがぼそぼそ言った。「果樹園や秋まき作物の心配でもした方が、よほどましじゃないのかい」。
「その通りだよ」。アキームは、ズック布で出来た鍛冶屋の前掛けで手を拭いた。「果樹園は、根元から切り倒さねばならんし、春になれば、新しい秋まき穀物の苗を植え付けねばならん。畑が凍ったり、氷が降らなければ良いが」。
「ラーズム、お前さんには、切り倒すなんて簡単に言えるさ。お前さんとこの果樹園は、傷一つ負ってねえんだもの。一体、お前さんは魔法の呪文でも唱えたんじゃないかね」。
「木の下から、つっかえ棒を外すのを忘れていたんだよ。そのお陰で果樹園が無傷で済んだんだ」。


この時、ウスチン・アゾリンの屋敷に、鈴を鳴らした三頭立て馬車が飛ぶように入って来て、円を描いて向きを変えると鍛冶場の側で停まった。橇の中からは、高価な白い毛皮外套を着て、もったいぶった、背の低いリャーピンが降りて来た。
「道をつけるのを頼みに来たんだ」。アキームは男たちにささやいた。「請け負うんだ。だけど、一日2ルーブルだ。それ以下では駄目だ」。

「変わりないかね、きみたち。みんなお揃いで、どうしたのかね」。
「お元気で何よりでごぜえます。こちらにどうぞ、パンテレイ・マルコーヴィチ様」。皆に代わってウスチン・アゾリンが、気を利かして答えた。「お客様をお通ししてくれ」。
リャーピンは、狭い人垣を通って炉の方へ歩いて行くと、凍えた手を火にかざした。
「ウマに蹄鉄を打つことにしたのかね。それはいいことだ」。太鼓腹の男は、毛皮外套の前をはだけた。「ところで、お前さんたちの中で、明日、道をつける仕事をしたい者はいるかね」。
「行くことは出来るが」。最初にイワン・ドヴォルツォフが口を開いた。「支払いは、どうなっているのかな」。
「日当は1ルーブルだ」。
「1ルーブルだったら、クマにでも掘らせるんだな」。アキーム・ダルニッツァが手を振って言った。
「こんなにつるつる滑る日にゃ、自分の飼い犬だって家から出さぬというのに、あなた様は1ルーブルですと! 安すぎますぜ、ご主人」。男たちはリャーピンに背を向けて、自分の仕事を続けた。
「よろしい、1ルーブルと50コペイカ払おう」。
「2ルーブル! 2ルーブル!」。皆が騒然とした。
「分かった、2ルーブル出そう! ただし条件がある。暗くなるまで働くんだ」。
「よし、決まった」。男たちは、応じた。
リャーピンは、アキーム・ダルニッツァの方を横目で見た。
「これはみんな、お前の仕業だな」。小男は、アキームを鞭で脅す仕草をした。「どこにでも余計な口出しをしやがって。扇動者め」。そして、鞭をひゅっと鳴らすと、ラズビータヤ・チャーシャ山[壊れ茶碗山]の方へ、鉱山に向かってウマを駆った。

     *****     *****


人気(ひとけ)のない冬。タイガは風で煙っている。木々が、夜に降った新雪の細かな白いビーズを、自分の体から払い落としているのだ。エゾマツやチョウセンゴヨウの大木の硬化した枝が、厳寒の中で凍裂する音が響く。源流では、岸から張り始めた堅い氷が、断続的にうつろな音を響かせる。その後辺りは、もやの微細な針状の氷片が空中で触れ合う音さえ聞こえる程の静寂が支配する。しかし、ラズビータヤ・チャーシャ山の人気(ひとけ)のない密林の朝のまどろみを、ウマの長く延びたいななきと人々の声が破る。

表面が固く凍った雪に覆われた狭軌道沿いに、橇の隊列が姿を現した。長いこと揺られていたため疲れて、口を利く元気も無かった人々が生気を取り戻した。素早くウマを橇からはずすと、つるはしやシャベルを握り、手慣れた仕事に取り掛かった。雪のリャーピン道路の道をつけるのだ。アキーム、ダーリヤ、ステパの組は、少し楽な箇所が当たった。二つの低く丸い山の間の狭い窪地で、地吹雪も吹き込まず、風の当たらない場所だった。彼らは丸々6日ここに通い、約2露里[約2.13キロメートル]の道をつけた。仕事は終わりに近づいていた。

太鼓腹(背の低いリャーピンはこう呼ばれていた)が、仕事が良くないと言いがかりをつけたり叱責したりしないように、アキームは念のため、角形のずっしりと重たい倒木を牽引用鎖に繋げて、軌道に沿って端から端まで2回、ウマに引きずらせた。リャーピンは出来上がった仕事を受け取り、日雇い人夫たちに支払うべき額を支払う以外になかった。

「石炭運搬の手間賃は計算しなくていいぞ」。太鼓腹は、額の下からじろりとアキームを見て、吐き捨てるように言った。「希望者はいっぱいいるからな」。
「勝手にしやがれ!」。憤怒のため、シャベルの柄がアキームの強い手の中でぽきりと音がして二つに折れた。「ダーリヤ、悲しむな、あいつなど当てにせずに何とかやって行こう。明日は、ステパを連れてタイガにクロテンを捕まえに行こう。お前さんは、干しコクワの袋を用意しておくれ」。

干したコクワをエサにしてクロテンを捕まえよう、という考えがアキームの頭に浮かんだのは、ダーリヤとステパと一緒にバールハトヌィ[ビロードのようなという意味]源流でコクワを採った、まだ秋のことだった。四方のタイガは、冷気を吸って生き生きと息づいていた。アキームは、前日に樽状の実の付いたサルナシの蔦が地面を這っているのを見つけた古い伐採地に向かって、少し色づき始めた木の葉のトンネルを通り抜けながら小道を急いでいた。当てにしていた場所に行き着くまでに、小道を2回、クロテンが横切った。そのそれぞれが、歯で緑色のコクワを運んでいた。クロテンたちは、倒木に向かっていた。そして、また向きを変え、その倒木から飛び降りると、最も近い蔓の方に走って行き、しばらく経つと、再び現れるのだった。

「どうして、あの倒木がクロテンを惹きつけるんだろう」。アキームはそう思って、倒木の方へ歩いて行った。着いて見ると、あっと驚いた。平らな枯れ木の上に、緑色のコクワの実が同じような列になって並べられていた。それらの中の幾つかは既に熟し、ところどころ齧られていたのだ。
(つづく)

関連記事
スポンサーサイト



  1. 2022/12/15(木) 15:18:41|
  2. ノンフィクション小説 「ヴィクトリア湾のほとりで」
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<2022/12/21 ヤングアダルト向けノンフィション時代小説「ヴィクトリア湾のほとりで」㉗ | ホーム | 2022/12/05 ヤングアダルト向けノンフィション時代小説「ヴィクトリア湾のほとりで」㉕>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://kurkuma.blog.fc2.com/tb.php/2968-aa5fd2b2
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)