楽天市場 あれこれ 2022/12/21 ヤングアダルト向けノンフィション時代小説「ヴィクトリア湾のほとりで」㉗
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2022/12/21 ヤングアダルト向けノンフィション時代小説「ヴィクトリア湾のほとりで」㉗

ヤングアダルト向けノンフィション時代小説「ヴィクトリア湾のほとりで」㉗
(ミハイル・ヂェメノーク Михаил Деменок作)



アキーム、ダーリヤ、ステパが、道を付ける仕事をした窪地から立ち去ろうとしていた時、斜面が禿げた山の小さな谷で、犬たちの激しい吠え声が聞こえ、それがどんどん大きくなって来た。と、その時、切り立った高台から大きな白いイジューブルが、下に向かって突進してくるのが、彼らに見えた。その雄ジカめがけて、山麓から聾唖者の猟師アルセンチーが、一直線に走って来た。ちょうど雄ジカが雪の奔流とともに険しい斜面からずり落ちた瞬間、銃声が響いた。イジューブルは、後ろ足で垂直に立つと、そのまま音を立てて倒れ、静かになった。

犬たちが吠えていた方角で猟師たちの声が聞こえ、すぐに、仰向けに倒れている白いイジューブルをブラコーフ家の主人を頭とした、武器を携えたその家の者たちが取り囲んだ。
「耳が遠いお前さんが、何処から現れたんだよ。何をやらかしたんだ。この純血種の種雄を殺っちまったのか。よおし、こいつに代わってお前をくたばらせてやる」。そう言うとミロンは、アルセンチーの顔を拳骨で力任せに殴った。彼はかろうじて立っていた。ちょうどそこに来たミロンの息子たちは、この不幸な人に飛び掛かり、無慈悲に叩いたり、蹴飛ばしたりした。

アキームは不幸な事態を避けようと、ウマで、争いの場に駆け付けた。
「やめろ」。彼は橇から飛び降りると、つるはしを手にして、ブラコーフ家の者たちに向かって走って行った。
「どうして自分の肉親を殴るんだ。彼がお前さんたちに代わってイジューブルを仕留めたからか?」。
「わしらには、生きているシロが必要だったのに」。ミロンは地団駄を踏んで、ぶつぶつ言った。「積み込め」。彼は、橇で近づいて来た下男に命じた。
「それは人のやり方じゃなかろう、それはないぞ」。肩からつるはしを降ろしながら、アキームは言った。「どこの猟師の決まりを見たって、お前さんは、アルセンチーに分け前をやるべきじゃないかね」。
「彼の分け前などあるもんかね。軽く済んだんだから礼を言ってもらいたいよ」。ブラコーフ家の者たちは、イジューブルの体を橇に乗せると、農場の方に向けて馬を駆った。

「ピャ、ピャ」。ブラコーフ農場の方を手で指しながら、アルセンチーは声を発した。
「座ってくれ、アルセンチー、座ってくれ」。アキームは、黙りこくったダーリヤの傍らに、彼を座らせた。「もちろん、何の理由も無しにお前さんを殴るなんて、腹が立つさ。しかし、もっと腹が立つのは、自分たちの身内を殴るってことだ。ステパよ、アルセンチーをタイガに連れて行こう。彼は罠を仕掛ける名人だし、彼にとっちゃタイガは自分の庭みたいなもんだからな」。


昨日同様、ようやく東の空が明るんで来た頃に、猟師たちは鬱蒼としたエゾマツ林の中のバールハトヌィ源流の岸に張り付いた冬の仕事小屋を出て、遠くに白い丘陵として見えている山麓に向かった。
厳寒の空中には、白鳥の羽根のようにふんわりした雪が一面に飛び回り、草、灌木、木々の上に積もって行く。タイガを歩く者にとって、新雪は一つの障害だ。白い灌木に肩を押し付けでもするや、たちまち足の先から頭の先まで、雪ほこりにまみれてしまう。

近道をしようと決めたアキームは、自分の後ろに猟師たちを従わせて、木のない裸地を歩いて行った。その道はしょっちゅう、出来たばかりの刺し子の縫い目のようにイジューブルの足跡が横切ってあった。足跡が新しいということは、シカたちは近くのどこかにいるのだ。アキームは、源流の氾濫原に視線を投げた。と、彼は自分の目が信じられなかった。白く、ふんわりした灌木から、ゆっくりと、どでかい縞のトラが現れ、イジューブルの足跡を辿って真っ直ぐ歩いて行った。そのすぐ後、でかい身体を地面にへばりつかせて、隠れた。手足をいっぱいに広げたトラは、興奮で震えながら尾を打ち、力強い身体を少し前に移動させた。明らかに、自分の犠牲者を観察しているのだ。しかし、その時、トラは屈強な、流れるような筋肉を緊張させ、後ろ足を蹴って裸地から離れると、一瞬のうちにとげとげした針葉樹林に紛れて見えなくなった。

「見たかね。トラがイジューブルに忍び寄るところを」。アキームは、息を呑んでいる猟師たちの方を振り返った。
「今、家畜は放し飼いになっているけど、そのうちの一頭が噛み殺されるまで、きっと誰も気付かないよ」。痺れた手に父親の猟銃を持ったステパが言った。
「ディブィ。ディブィ」。トラが身を隠した針葉樹林の方を手で示しながら、アルセンチーは回らない舌で何かを言った。

草木の無い石がちの小山の周りに巻き付いた、曲がりくねった小径を行く時、猟師たちは、あたかも周辺の針葉樹の巨大な釜に入り込むかのようだった。タイガは依然として静まり返っていた。切り倒され十文字に重ねられた枯れ木の側では、アルセンチーが巧みにこしらえた、小さな家の形の罠にしょっちゅう出会った。その罠の中には、どんな小さな動きでもばたんと倒れてクロテンを挟む、何本かの細い杭があり、その上にあるかもいの真下に、干したコクワが撒かれている。4つの罠で、猟師たちは、3匹の背の黒い、つまりは最も高価なクロテンを捕まえた。アルセンチーは有頂天になった。彼は袋の中から自分の手のひらに一掴みの干しコクワを取り出すと、 長いこと頭を振っていた。
「ディブィ、ディブィ」。そして再び、小さな家の中の杭を仕掛けて、落ち葉の上に直接コクワをばら撒いた。
「何がどうなるかってことが、分かったかね」。アキームは、同意を示してアルセンチーの肩をぽんと叩いた。

全てが上手く行った。倒木を回って猟師たちは、たった2週間で1ダースのクロテンを捕まえ、石がちの段丘崖の一つでは、肉付きの良い雄ジカを仕留めた。
しかし、ここで災難にあった。小さな家の罠に、ミヤマカケスやホシガラスが群れをなして集まって来た。特に、暖かい日はそうであるということに猟師たちは気付き始めた。鳥たちは、猟師の罠の中で干しコクワを探し当てて、威勢よくついばんでは食べてしまったのだ。猟師たちは、鳥たちの《エサ場》を諦めて、静かで、しつこい食いしん坊の鳥たちがいない場所を、他に捜さねばならなかった。
しかし、この時、あいにくなことに、干しコクワが底をついてしまった。アキームはステパを、干しコクワを取りに家に向かわせた。ダーリヤへの手土産に、4枚のクロテンの毛皮を託すことも忘れなかった。しかし、ステパはチェレムシャヌイまで行き着くことは出来なかった。
(つづく)

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