楽天市場 あれこれ 2022/12/25 ヤングアダルト向けノンフィション時代小説「ヴィクトリア湾のほとりで」㉘―最終回―
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2022/12/25 ヤングアダルト向けノンフィション時代小説「ヴィクトリア湾のほとりで」㉘―最終回―

ヤングアダルト向けノンフィション時代小説「ヴィクトリア湾のほとりで」㉘―最終回―
(ミハイル・ヂェメノーク Михаил Деменок作)



山道で彼を出迎えたのは、ブラコーフ家の息子たちのイェゴールとニコライだった。行く手を遮り、ステパの背嚢の中身を引き出してから、彼らはステパの両手を縛り、武器で脅かしながら、あまりにも成功している猟について白状させようとした。しかし、ステパは一言も発しなかった。
「ちぇっ、このガキ、おやじに全部言いつけてやるからな」。
相手が手ごわいことを理解したブラコーフの息子たちは、分捕り品を分け合ってから、去って行った。ステパには、冬の仕事小屋に戻る以外に、方法は残されていなかった。

夜になって、もっと悪い事が起こった。ステパのひどい話を聞いたアキームは、手に湯沸かしを持ったままドアの方へ歩いて行き、怒りに任せてドアを蹴飛ばした。しかし、ドアが開かなかった。
「凍り付いたのかな」。彼は、もう一度力を入れて、ドアを足で蹴った。しかし、それはぴくりともしなかった。そこで、ドアが押さえつけられていることが分かった。
アキームは、小屋の中を歩き回っていたが、その後で長椅子に静かに腰を下ろして、石積みの炉に目を走らせた。
「小屋の中には、薪の蓄えも無い。うまいことを考え付いたもんだ。わしらが凍え死んでから、小屋に入って来てクロテンの入った背嚢を奪うつもりだ。ブラコーフの仕業に違いない。もはやクロテンどころではなく、お前たちの生き死にの問題だ。さあ、一緒に押すんだ」。アキームは、肩をドアに押し付けながら命令した。アルセンチーとステパは、彼のやり方に従った。しかし、その甲斐も無く、ドアは、あたかも土に根っこを生やしてしまったかのように、微動だにしなかった。

アキームは、板寝床の下を覗き込んで、そこから、チョウセンゴヨウの松かさを叩き落す時に使う突き棒を取り出した。
「こうなったら何でも試してみよう」。彼は丸太小屋の丸太の一つでも叩き落せないかと願って、突き棒をさっと振り上げ、壁に打ち当てた。しかし突き棒は、ほぞ組みになった松やにの匂いのする丸太から、毬のように跳ね返った。
「一つ方法が残っている」。アキームは切ったトドマツの枝に膝をつくと、少し腐りかけている丸太組の側で、猟師ナイフを動かし始めた。「地下道を作ろう。それ以外にここから抜け出す方法は無い」。

二日二晩、一瞬の休みも無く、その間に凍ったイジューブルの肉をつまむことが出来ただけで、猟師たちは手や膝に血をにじませながら、ナイフで地面を掘り続けた。太陽が差し込む鬱蒼としたエゾマツ林にやっとのことで抜け出した時まで。ドアから大木を取り払ってから、アキームが最初にやったことは、マーモント谷[マンモス谷]まで続いている、他の足跡を観察することだった。間違いなく、これは潜水夫[ニコライのあだ名。当時村では、あだ名で呼び合うことは普通だった]とイェゴールのやったことだ。ステパのクロテンが、彼らには足りず、こちらを羨んで、3人全員を殺し奪い取ろうとしたのだ!

冬の仕事小屋を後にする時、アキームはブラコーフ家の人たちへ、畜生!とつぶやき、クロテンを取り戻すことを誓った。ステパとアルセンチーを、ブラコーフの冬小屋から半露里[約500メートル]のところの若木の茂みに残し、自分は、鉄の煙突から煙が上がるのを待った。それは、ブラコーフ家の者たちが落ち着いて、夕食に取り掛かったことの確かな印だった。そうなってから、アキームは灌木の茂みから出て、手にずっしりと重たい木の根元を持って、小屋の方へこっそりと忍び込んだ。ドアにその根元を押し付けると、大木の後ろまで身を引いて、悪意の無い声で叫んだ。
「お前さん方、自分たちの行いが災いを招いたぞ。これでも人を嘲笑するつもりかね、えっ?」。

その後、大きな悪口雑言が聞こえ、叩く音が響いて来た。ブラコーフ家の兄弟は、何かでドアを破ろうと試みていた。それが半時間程続いた。しかし、とうとう自分たちの出口の無い状況に観念して、口々に嘆願した。
「ラーズム、俺たちをここに見捨てないでくれ。寒くて、歯の根が合わないんだ。聞いているのかい。お前は何が必要なんだい、何でもやるよ」。
「何がだと? ステパのクロテンを返してくれ。そしたら解放してやろう」。
「分かった、ラーズム」。潜水夫が、しょげた声で答えた。
「ドアを細く開けたらすぐに、クロテンを雪の上に投げるんだ。ふざけたことを絶対に考えるなよ、さもないと」。アキームはベルダン銃の遊底をがちゃりといわせて、警告のために叫んだ。「ステパよ、アルセンチーと一緒に反対側から回り込め」。
彼は手を差し出せるように、足で木の根元を押しのけた。すぐさま戸口に手が現れ、雪の上に4枚のクロテンの毛皮が落ちた。アキームは戦利品を掴むと、ドアを押し付けていた木の根元を肩でひっくり返し、一瞬のうちに、綿のような雪で被われた針葉樹林に姿を消した。


*****     *****     *****


1917年の春。チェレムシャヌイの周りの、暖かさを待ちくたびれていたタイガが目覚めて来た頃、エゾムラサキツツジの最初の花と共に、村に、戦争が終わったというニュースが流れて来た。
出征軍人たちが、次々と、チェレムシャヌイの自分の家や農場に戻って来た。彼らが村で最初にしたことは、家々を訪ねて行っては、遠い異郷の地で死んだ近しい人たちを悼んで泣くことだった。

エフィム・ダルニッツァも、家に戻った。澄み切った空に静かな朝焼けが現れた頃、彼は、わが家の屋敷の傍らに立った。帽子を後頭部にずらせて、戦争の年月の間に少し歪んだ百姓家を、コケが覆った煤けた屋根を、傾いた垣根を長いこと見ていた。羽根のもげたツルが何羽かいる井戸、荒廃し、切り払われた果樹園、いつだったか若い頃、そこで気の荒い雄ウシのシフカを調教したのに、今やガマがはびこっている湖、それら全てが心を重たく、痛く締め上げた。早く、家の中へ・・・。そこでは、涙で濡れたダーリヤの熱い抱擁と、子供たちの喜びの叫び声が、この兵士を待っていた。
(終わり)

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  1. 2022/12/25(日) 23:30:00|
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